東京地方裁判所 昭和43年(ワ)239号 判決
原告 斎藤たい
〈ほか一名〉
右両名訴訟代理人弁護士 松島政義
右原告両名補助参加人 喜多満
右訴訟代理人弁護士 松島政義
被告 白井照次
右訴訟代理人弁護士 菊地政
主文
別紙目録記載の各土地を競売に附し、その競売代金を原告斎藤たいが四分の一、原告斎藤征一が四分の一、被告が四分の二の割合にそれぞれ分割する。
訴訟費用は全て被告の負担とする。
事実
第一、双方の申立
(原告ら)
一、原告らは、左記(一)、(二)、(三)のうち、選択的にいずれか一つの裁判を求める。
(一)、主文第一項同旨
(二)、別紙目録記載の各土地を、それぞれ被告が二分の一、原告らが二分の一の割合に分割する。
被告は、共有分割を原因として、右各土地の二分の一を分筆し、右分筆された土地につき、原告らの共有とする登記手続をせよ。
(三)、被告の選定した鑑定人に別紙目録記載の各土地の時価を鑑定させ、原告らは、右各土地の被告の持分を取得するのと引換に、被告にその対価として右鑑定価格の半額を支払え。
被告は、別紙目録記載の各土地における被告の持分について、原告らのため、共有分割を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
一、原告らの請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告らの負担とする。
≪以下事実省略≫
理由
別紙目録記載の各土地がもと被告の妻ことの所有であった事実および同人が昭和二三年七月一〇日死亡した事実は当事者間に争いがないところ、≪証拠省略≫によれば、喜多満はことの嫡出子および非嫡子でないことが認められるから、満はことの相続人ではないこととなる。
そこで、真正相続人から僣称相続人の特定承継人に対する財産権の回復請求は相続回復請求かそれとも所有権に基づく返還請求かについて判断するに、相続回復請求は相続によって取得した個々の財産権の内容を実現するものと考えられるから、僣称相続人の特定承継人も当然相続回復請求の相手方となるものと解するのを相当と考える。従って相続回復請求権の消滅時効完成をも時効援用者の原則どおり当然援用しうるといわねばならない。実質的に考えても、真正相続人が、僣称相続人にその処分権のないことを主張できなくなったにもかかわらず、僣称相続人の特定承継人との関係では主張できるとするのは不合理である。
被告がことの死亡前から満を僣称相続人であると知っていた事実は本件全証拠によるもこれを認めることはできないが、被告がことの死亡による相続開始の時から二〇年間満に対して相続回復請求権を行使しなかった事実は被告において明らかに争わないから自白したものとみなすべく、二〇年間が時効か除斥期間かについては争いがあるところ、たとえ時効であるとしても、僣称相続人の特定承継人が時効完成の利益を援用しうることは前述のとおりであるから、満に対する被告の相続回復請求権は消滅時効の完成によって消滅したといわねばならず、従って右各土地における被告の所有権のうち二分の一の持分権は消滅し、満が右持分権を取得したものといわなければならない。
≪証拠省略≫によれば、原告斎藤たいが満より同人の持分権を買受けた事実が認められる。被告は右売買は真実は譲渡担保である旨主張するが、これを認めるに足りる信用できる証拠はない。原告斎藤たいが同人の持分の二分の一を原告斎藤征一に売渡した事実は被告において明かに争わないから自白したものとみなすべく、原告らが被告に対し共有物分割の請求をしたが被告が分割協議に応じない事実および右各土地上には建物が存在している事実は当事者間に争いがない。
そこで被告の抗弁につき判断する。
満が原告斎藤たいに右各土地を売渡した際の売買代金が金一五〇万円であったことは原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべく、また右各土地の価格が坪当り一〇〇万円前後であり従って満の持分の価格は約九、〇〇〇万円であった事実、満に右各土地を売却する意思がなかった事実、原告斎藤たいにも右各土地を買い受ける意思がなかった事実および同人が満の無知無経験無思慮、窮迫に乗じて暴利を得んとして右売買契約を締結した事実はいずれもこれを認めるに足りる証拠がない。
よって被告の抗弁はいずれも理由がないものといわなければならない。
そこで、分割の方法につき判断する。
右各土地に建物が存在していることは当事者間に争いないところ、≪証拠省略≫によれば、各土地を二分の一づつに分割した場合いずれの土地においても一つの建物が分割された土地の双方にまたがって存在することになる事実が認められるから、現物分割は著しく価格を損するおそれがあるといわねばならない。また原告は価格賠償による分割方法を主張するが、裁判所は現物分割か代金分割を選ぶほかないのであって、右主張は採用できない。
よって、右各土地の競売を命じその代金を分割することとする。
そうとすると、原告の本訴一、の請求は理由があるから正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条および第九四条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 長井澄)